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僕は再び思い知る。
彼女は吸血鬼なのだと。
あんなに大好きだった美怜のことが、今は物凄く恐ろしい対象として映る。
余りの恐怖に口が渇き、言葉が出てこない。
美怜の血塗られた指先が僕の首筋に触れる。
僕は咄嗟にその手を払いのけると、床を這いながらも扉を目指した。
嫌だ――
殺されるのは嫌だ――
死ぬのは嫌だ――
本能的に死を恐れた僕は、彼女から――吸血鬼から逃げようとする。
美怜はもう、美怜じゃない。
殺戮を楽しむだけの吸血鬼だ。
僕は馬鹿だった。美怜はもうとっくにイカレていたのだ。
そして――自分もイカレていた。
あの瞬間から手遅れだったのだ。
人間の血の味を知ってしまった美怜は、心まで吸血鬼化が進行していたのだろう。
なんとか扉まで辿り着く。
迷わずに扉を開けて外に飛び出せばいいものを、僕は一度振り返ってしまった。
目の前に美怜の顔があった。
次に下っ腹に激痛。
口から吐血しながら、自分の腹を見た。
日本刀が深々と突き刺さっている。扉を貫通して更に刃先が奥に進む。
うめき声が僕の口から漏れる。
痙攣した身体は意志に反して、ほとんど動かない。
扉ごと串刺しにされた僕は、消えかける意識の中、美怜の顔を覗いた。
美怜は泣いていた。
口を快楽に歪めた状態で、赤い瞳からは、透明な涙が流れていた。
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