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久しぶりに降り立った日本の空気は美味しかった。
陽射しは強いが、今日はまだ耐えられなくもない。
僕はキャップを深々と被ると、空港を出た。
外でタクシーを拾い、実家のある、あの町へ向かう。
もうすぐ冬がやってくる。
思い出の多い――あの冬が。
三十年振りの故郷だ。
お父さんやお母さんはまだ、元気でいるだろうか。
友人の修二や他の皆も、それぞれ頑張っているだろうか。
もしかすると、他の土地で今は暮らしているかもしれない。
町の形も大分変わっているかもしれない。
僕は昔に思いを馳せながら、青く澄んだ蒼弓を見上げた。
タクシーの窓から覗く青空は、あの頃よりも目に染みるが、なんだか懐かしい景色だった。
僕が吸血鬼になって三十年振りの日本――
そして、三十年振りのふるさと。
身体の成長は止まり、歳もとらなくなった。
しばらくは死ぬこともない。
陽射しはある程度我慢できる。
血も動物から摂取している。
当たり前となったこの身体の生活は、昔は本当に苦労した。
何度も人間を襲いそうになった。
その度、傍らにいつも一緒にいてくれた美怜が俺を止めてくれた。
あいつが吸血鬼としての生き方全てを、僕に教えてくれたのだ。
膝に載せている鞄を優しく撫でる。
地元に着いた頃には陽は傾き始めていた。
残念ながら、僕の実家は空き地になっていた。
昔あった家は跡形もなく消え、様変わりした町を見て、悲しく思った。
どこかで元気に暮らしていることを祈りつつ、その場を後にする。
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