73人が本棚に入れています
本棚に追加
交通事故に巻き込まれた気分だった。
早くこんな悪夢なんか覚めてほしい――
しかし、もはやブラウン管越しの出来事で片付けられる光景じゃないことは、自分の脳が一番よく理解しているのだろう。
全身の震えが止まらない。いち早くこの場から逃げろ――と、警告する。
少女が男性の首からゆっくりと顔を擡(もた)げた。
快楽を終えた後のように、白い吐息を余韻に残す。
その横顔はやっぱり白く、惚けた瞳を数秒上空に漂わせていた。
青白い唇から滴り落ちるのは、朱い雫――
雪に覆われた白い路面が、朱い鮮血によって、色を付けていく。
点々とした朱が、異様な光景に華を添えてるかのようだった。
不謹慎ながらも僕は、少女の横顔に妙な色っぽさを感じてしまっていた。
首から血を流した男性を放り投げ、少女が落ち着いた動作のまま、立ち上がる。
大の字になった男性をしばらく見下ろしてから、口の両端を不気味に吊り上げた。
顔を上げ数瞬の間、ようやく少女がこちらに振り向いた。
瞳は興奮しているのか、兎のように真っ赤だ。
睫毛(まつげ)の長いその瞳が、真っすぐに僕を捉える。口端から血を垂らし、未だ歪んだ高揚を湛えながら。
――僕は絶句する。
何てことだ、と。
気迷いは数瞬、身体が咄嗟に機能した。
僕は雪に足を縺れさせながらも、少女とは逆方向に走り出す。
殺される――
そう察知した僕は、学生鞄を投げ出したまま、少女から逃げる。
最初のコメントを投稿しよう!