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「なぁ、遥……」
彼女が、ゆっくりとこちらに顔を向けるのを感じる。その表情は、見えない。
俺は、身じろぎ一つしない。
真正面を向いたまま、窓の外から視線を動かさず、呟くように声をかける。
「このまま……」
──二人で、どこかに逃げてしまおうか。
「なおと」
だけど、その言葉を紡ぐ前に、それは遮られて。
視線を横に向ければ、いつの間にか視線を戻した彼女の姿。
彼女もまた、窓の外の風景から視線を逸らすことはなく……
けれど、言葉の代わりとでも言う様に、繋いだ手に少しだけ力が込められた。
弱々しい彼女の細い手、その力が、珍しく妙に痛く感じられたのは俺の勘違いなのか。それとも……
「尚人」
彼女――遥は、敢えて答えをはっきりと口にしたりはしない。
それでも、解っている。
駄目だ、と。
そう言っていることくらい。
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