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こんな田舎の山奥の、そのまた奥に、こんな場所があることを知る人は少ないのか……夏の盛りだというにも関わらず、この美しい海の畔には誰もいなかった。
よほど詳しい人でなければ分からない様な、奥まった場所だからか。誰も来ることのない様な無人の駅。
電車を降りると、広がるのは自然だけ。
そこから少しも歩けば、すぐに海に出る。
「綺麗だね」
「あぁ」
打ち寄せる波、それに白い泡。
打ち寄せては、すぐに泡沫の様に儚く消えていく。
それらは、まるで……
「私の記憶も、いつか、こんな風に消えていくのかな」
「…………」
聞きたくはなかったけれど、聞こえてしまったそれは、もう、どうしようもなくて。
ただ、その呟きを否定するように、そっと……繋いだ手に力を込めた。
そんなことない……
そう思っていても、言ってやりたくても、決して口にすることは出来なかったから。
……してはいけないことを、誰よりもよく知っているから──
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