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「あたしと手、繋いでどう思ったかって聞いてるの」
「どうって…他の男連中に羨ましがられるだろうなーとか」
どういう意味だかは分からないが、あたしはそんな答えは望んでない。他の人のことじゃなくて、嵐丸の気持ちが聞きたいのだ。
聞き出したかったけれど、お客さんが来て聞くチャンスを逃してしまった。
三回目。
(三度目の正直)
あたしは今度と言う今度こそ、嵐丸に自分の気持ちを伝えようと意気込んだ。
文化祭が終わってから、チャミやショウコ、直樹と嵐丸、それにあたしの五人で、打ち上げでカラオケに行こうと言うことになった。
そのカラオケで、直樹が似合わないラブソングを歌い出したのは、多分あたしの背を押すためだったんだと思う。
あたしは、嵐丸の隣の席に座り、彼の耳元に唇を寄せた。
「嵐丸くん、好きです。あたしと付き合って下さい」
嵐丸は鈍感だから、はっきりと、ストレートに。何の飾りもなく、そう伝えた。
嵐丸は悩まなかった。
「いいよ」
そうさらりと答えて、小さく笑った彼は、すごく素敵に見えた。
あたしも嵐丸も、誰かと付き合うということ自体が初めてで、二人はとても不器用だった。
そもそもあたしは、本人に聞かれていない所では
「嵐丸って、ちゃんとあたしのこと好きなのかな」
とか、彼を呼び捨てにしていたのだけれど、いざ本人の前に立つと緊張して
「嵐丸くん」
と呼んでしまう。
「あー、もう。嵐丸でいいって。他の奴ら、皆そう呼んでるし」
嵐丸はそう言ってくれたけど、あたしの癖はなかなか直らなかった。
ようやく
「嵐丸」
と呼べるようになったのが、付き合って一週間。
「らんまる」
の響きがすごく可愛くて、大好きだった。
あたしが何度も何度も彼の名前を呼ぶから
「なんだよ?犬じゃないんだから、用事もないのに呼ぶなって」
と彼は笑った。
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