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手をつなげるようになるまでには、二週間掛かった。
嵐丸が手を伸ばしてくれないと、あたしは手を繋げない。
「ほら、帰ろうぜ」
嵐丸は何でもないことのように手を伸ばしてくれた。
指先を絡めあわせて手を繋ぐたび、あたしのドキドキのバロメータは簡単に上がる。
彼に初めて抱き締められたのが、三週間目。
「チイコ」
あたしの名を呼んで、彼がおずおずと腕を伸ばしてくる。あたしが一歩近付いて、それからぎゅっと抱き締められた。
学ランの下で、彼の鼓動もすごく早くなっているのが分かって
(恋、してる)
とすごく実感したのを覚えている。
初めてのキスは、一ヶ月目。
誰もいない教室で、嵐丸は不意に言った。
「なぁ…チイコ。俺さ、お前のこと、すっげー好きだよ」
飾り気のないそんな言葉が、あたしはすごく嬉しくて
「あたしも」
と、初めて自分から彼に抱き付いた。
あたしより背の高い彼の首に腕を回し、少し背伸びをする。
「チイコ」
名前を呼ばれたから、少し顔を離すと、思った以上に彼の唇が近くにあった。
(キス、される)
そんな予感がした。
唇の辺りがじんわりとして
(この人となら、初めてのキス、したい)
と強く思った。
「嵐丸」
あたしは彼の名を呼び、静かに目を閉じた。
お互いの唇がほんの少しだけ触れ、すぐに離れる。
たったそれだけ。
なのに、あたしの膝は震えて、今にも崩れ落ちそうになっていた。
その日は、二人ともなんだか気恥ずかしくて、ほとんど話さずに帰路に着いた。
(ファーストキス…)
その晩、あたしはそっと自分の唇に触れては吐息をこぼし、眠れぬ夜を過ごした。
そんな風に、あたしは体ごと、彼に恋していた。日を追うごとに、彼の事が好きになった。
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