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特別なデートは、クリスマス。
あたしなりにオシャレをして、嵐丸と駅前で待ち合わせた。
鼻の頭が少し赤くなった彼は
「可愛い」
と、あたしを見て笑った。
そんなに真っ直ぐに褒められて照れながら、あたし達は一緒に映画を見に行って、お昼ご飯を一緒に食べて、なんだか少し大人になった気分のデートをした。
「これ、プレゼント」
彼はそう言って、綺麗な包み紙のハンカチを渡してくれた。
「ありがと」
なんだかすごく緊張して、上手に笑えていたかどうか覚えていない。
あたし達は、もっと等身大の方が合っていた。
大人びたデートよりも、ゲームセンターにいる方が彼らしい。
「よっしゃ、ぬいぐるみGET!やるよ、チイコ」
そう言っていつものようにぬいぐるみを渡されて、あたしはとても喜んだ。
(背伸びなんかするものじゃないな)
あたしはその時、そう思ったはずだ。それなのに、あたしは幼くて、そんなこともすぐに忘れてしまった。
デートはいつも公園か、ゲームセンターだった。
公園ではたくさん、たくさん、色んな話をした。
幼い頃の嵐丸の話が、一番好きだ。彼はとても妹思いで
「泣き虫で面倒くさい」
と文句を言いながらも、なんだかんだと仲が良くて、一人っ子のあたしは彼の妹をすごくうらやましがったものだ。
ゲームセンターでは、いつも嵐丸がUFOキャッチャーでぬいぐるみを取ってくれた。
「わぁ、ありがと!」
あたしはぬいぐるみを受け取っては喜び、それを一つ一つベッドの上に並べて行った。
「ぬいぐるみ、たくさんあるよ。今度、あたしの家に来て」
あたしはそう言って、嵐丸を誘った。
初めて嵐丸があたしの部屋に来たのは、付き合って三ヶ月目。その時、嵐丸はちょこんと部屋の真ん中に正座をして、すごく緊張していた。
「大丈夫、お母さん、いないから」
あたしがそう言って頬に口付けをすると、彼はますますきゅっと小さくなって
「…そっか」
とだけつぶやいた。
(可愛い)
抱き締めたくなるくらい、彼はキュートな人だった。
あたしが彼の部屋に初めて行ったのも、同じ頃。あたしもすごく緊張して、部屋の真ん中で正座をしてしまった。
「お母さんいるけど、大丈夫」
彼はあたしの真似をしてそう囁き、頬に一つ、口付けをくれた。
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