記憶 ver チイコ

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 あたしはその時、恋というものに対して、かなり奥手だった。  男の子の友達は多い。でもそれが恋に発展することはなくて、友達の男の子から 「好きです。付き合ってください」 と言われた時は、驚きが隠せなかった。  だって、あたしはその時、まだたった14歳で、「彼氏」や「恋愛」と言う言葉は、あたしにとってとても大人びて聞こえた。自分はまだまだ子どもだと思っていたのだ。  それに彼氏が欲しいから「作る」という感覚が、当時のあたしにはまるで理解出来なかった。 「恋って自然に落ちるもので、しようと思ってするものじゃないんじゃないかな」  あたしがそう言った時、チャミや、ショウコは笑った。 「チイコって、ほんとに真っ直ぐだよねー」 「えー、そうかなぁ」  真っ直ぐかどうかは別として、とにかく一体どういう状態のことを「恋愛」と呼ぶのかが分からない、というのが私の正直な感想だった。  ラブストーリーのドラマを見ても、少女マンガを読んでも、あたしにはどうもピンと来ないものだから、誰かに告白というものをされても 「恋愛って分からないので」 と言って断ってしまうのは口癖のようになっていた。 「この前、チイコに告りに来たの、サッカー部のエースじゃん。断るのもったいねーとか思わないの?」  嵐丸にそう聞かれた時、あたしは目を丸くした。 「え、好きでもないのに付き合ったら失礼でしょ?」 「そうか?相手はそれでも喜ぶと思うけど。なぁ?」  嵐丸と直樹が目を見合わせているのを見て、あたしは心の中で (恋愛って分からない) と一人、嘆いていた。  嵐丸と仲良くなったのは、放課後、文化祭の準備の時だ。  チャミもショウコも吹奏楽部で、文化祭前の練習はかなり忙しい。だから、図書委員のあたしは 「文化祭の準備は、あたしがやっとくから任せて!」 と彼女達を部活の練習へと向かわせ、一人で段ボールを運ぶことにした。  放課後、一人の教室はちょっと怖い。それでもドアを開けた時 「お、チイコ。探したんだよ」  嵐丸と直樹がいるのを見て、あたしは驚いた。 「あれ、二人とも今日部活でしょ?」  二人は目を合わせ 「俺ら、風邪引いてることになってるから」 と笑う。  要するに、サボッたらしい。 「チイコ一人で準備するの大変だろ」  そう言って、嵐丸が段ボールを持ってくれた時、ちょっとドキリとした。  多分、そんな他愛ないことが恋に落ちるきっかけだったんだと思う。
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