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「嵐丸のこと、好きなのか」
嵐丸が少しトイレに行った隙に、放課後の教室で、直樹に突然そう言われた時は、戸惑った。
「え、なんで」
顔が一気に熱くなる。
「分かりやすい奴」
直樹が呆れたように、あたしを見た。
「そんなに顔赤くすんなよ、こっちのが恥ずかしいっつの」
直樹が頭をがしがしと掻く。あたしが頬を押さえながら
「なんで分かっちゃったの」
と尋ねてみると、直樹は
「見れば分かる」
と一言で片付けた。
「えー、あたし、そんなに分かりやすく態度に出てる?」
「いや、なんつーか」
直樹は少しだけ言葉を選び、それからぼそりと呟いた。
「まぁ、俺と嵐丸は似てるからな。見るモンも、好みも同じっつーかさ」
「何、それ」
あたしがきょとんとすると、直樹はますます呆れたように眉を寄せた。
「お前、ほんっとに鈍感だな」
「え、全然分かんない」
どういうことなのか問いつめようとする前に、嵐丸が教室に戻って来た。
直樹が意味深な目であたしを見てから、嵐丸と入れ替わりに教室を出ようとする。
このタイミングで嵐丸と二人になるのはまずい。あたしは思わず、直樹を呼び止めた。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「ションベンだよ」
「…っ」
恥ずかしい言葉を堂々と言われ、あたしはグッと黙り込んだ。
直樹が出て行き、嵐丸は不思議そうにあたしを見た。
「どしたの、チイコ。顔赤いけど」
「な、なんでもないの」
「ふぅん」
嵐丸は納得いかない顔で頷いた後、不意にまじまじとあたしを見て言った。
「なぁ、チイコって直樹のこと好きなの?」
「え?そんなことない」
さっきと違って、すんなりと答えが出て来た。
事実、直樹はいい友達だけど、恋愛となると何かビビッと来るものに欠ける。
「なんでそう思ったの」
あたしが尋ねると、嵐丸は直樹と同じようなことを言った。
「直樹と俺って、見てるモンとか、考え方とか似てるからさ」
「つまり、どういうこと?」
あたしはそこを聞きたいのに、またしても流されてしまった。
「まぁ、いいや」
嵐丸はそう言うけど、全然よくなんかない。あたしは思わずグッと身を乗り出した。
「ねぇ、もしもだよ。もしもあたしが直樹のこと好きだったら、どうするの」
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