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「どうするって…どうもしねえよ。好きなら、付き合えばいいじゃん」
嵐丸はそう言った。
あたしは小さく唇を噛んだ。
「…少しは気にしてよね」
「何?聞こえなかった」
「なんでもない!」
あたしは嵐丸に背を向け、作業に戻った。
(あたし一人で浮かれて、一人で怒って、馬鹿みたい)
恋というのは、こんなにも気力を使うものなのだろうか。
そんなことを考えながら、黙々と作業をしていると、少し時間が経ってから直樹が帰って来た。
あたしの所に近付いて来て、嵐丸に聞こえないように、こっそりと
「ちゃんと言ったのかよ?」
と言う。
「…言うわけないでしょ。嵐丸、超鈍感」
あたしが頬を膨らませると、直樹は苦笑いをして
「お前に言われたくないんじゃね?」
と肩をすくめた。
「あたしはそこまで鈍感じゃない」
あたしはそう言って、直樹に仕事を押し付けてやった。
当時のあたしは、常々思っていた。
もし。
もし、あたしと嵐丸が付き合うようになったとしたら。そんなことになったらと想像するだけで心臓が壊れそうになるけど、もしそうなったとしたら。
直樹と嵐丸の関係はどうなるのだろうと、時々考えた。
そして答えはいつも同じ。
(あの二人は、ずっと友達なんだろうな)
男同士の友情はいい。なんだか女の子同士にはない、独特の空気感があって、あこがれる。
喧嘩をしても、次の日には仲直り。
(直樹と嵐丸は大人になっても、ずっと仲良しなんだろう)
本人たちがどう思っているかは分からないが、傍目に見ていてそう見える。
きっとあの二人の関係は変わらない。
(でも、恋人は違う)
喧嘩もするだろうし、いつか別れが来るのだろう。
当時は中学二年生だ。その頃から付き合って、結婚したなんて話は、滅多に聞かない。
いつかお互い、他愛ない理由で別れてしまう日が来るのだと、あたしはなんとなく気付いていた。
付き合ってもいないのに、もう別れのことを考えるなんて、おかしいかも知れない。
でも、あたしはそれくらい、嵐丸のことが好きだった。
(友達でもいいから、嵐丸のそばにいたい)
そう思う気持ちと
(いつか別れが来てもいいから、もっと嵐丸と近付きたい)
と思う気持ちは交互にやって来て、あたしをひどく悩ませた。
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