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好きなのに、なかなか言えない。
そんなあたしの背中を押したのは、やっぱり直樹だった。
文化祭前日、生徒たちは浮ついていて、準備に忙しい。
「文化祭の日、言えよ。嵐丸に、好きって」
急にそんなことを言われて、あたしは思わず顔を赤くして、直樹を振り向いた。
「ちょっと、誰かに聞かれたらどうするの…っ」
あたしは声をひそめたが、直樹は呆れ顔でこう言った。
「ってか、もう皆知ってるって」
「直樹、誰かに言ったの?」
「言わねえよ。そんなことするように見えんのか」
直樹が心外そうに眉を寄せた。
「見えない」
あたしは首を横に振った。
直樹は友達は多いけど、ぺらぺらと何でもしゃべるような人ではない。それはあたしにも分かっている。
「なんで皆知ってるの?誰にも言ってないよ、あたし」
あたしが言うと、直樹はやれやれとばかりに頭を横に振った。
「だから、見てりゃ分かるんだって。お前、分かりやす過ぎるんだよ。いっつも嵐丸のことばっか見てるじゃん」
「嘘…。ほんとに?嵐丸も気付いてるかな」
もしそんなことになったら気まずい。不安に思ったのだが、直樹は肩をすくめ
「あいつだけだな。気付いてないの」
と言う。
「良かったぁ…」
あたしはその場にへたれ込みそうになったが
「だから、ちゃんと言えって」
と、直樹に肩を叩かれた。
「でもそれでフラれたら、どうするの。あたし、立ち直れない。それなら、今のまま友達でもいいから、ずっと笑いあえる関係のがいいよ」
こそこそと声をひそめたまま、あたしは言った。
「フラれなかったとしても、いつか喧嘩とかして別れちゃったりしたら、もう友達でもいられなくなるかも知れないんだよ」
それを聞いて、直樹は頭を掻きながら
「そんな先のこと心配してどうすんだよ」
と言う。
そんなことは言われなくても分かっている。でも、あたしは怖かった。
そんな怖がりのあたしに、直樹は言った。
「もっかい聞くぞ。チイコ、お前、嵐丸のことが好きなんだろ?」
まっすぐ目を見て、直樹はそう言った。
あたしは一度、こくりと頷いた。
「好き」
「じゃぁ、言え。じゃなきゃ、俺が嵐丸にバラすぞ」
「なんで直樹がそんなこと言うのよ」
あたしが少し怒って彼を睨むと、直樹は
「もどかしいからだよ。それにいつまでもこんな状態が続いたら、俺、嵐丸と喧嘩しそう」
とぼそりと言った。
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