第二章 『惑思なる千里眼』

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「この際、教えてあげましょう。これぞ我が奥義、『偽』系統第四咒法、〈まつろわぬ虚の理想郷〉です。対象者を決して覚めることのない夢の世界へ誘う魔乖咒ですよ」 ナイトの意識が、魔乖咒によって奪われていく。 それは速く、果てのない奈落の底へと堕ちていく感覚に似ていた。 「ただ、この魔乖咒は強力な分、発動に時間がかかるのですよ。 しかも対象者が魔法陣の中心から動いてはいけないという制約までありましてね、それで少し面倒でしたが、あなたには私の幻想世界を彷徨ってもらいましたよ。 まぁ、いわゆる時間稼ぎです。 おかげでこのとおり、あなたはこのまま覚めない夢の世界へと旅立つというわけです」 ドウ、とナイトはその場で倒れた。 もはやナイトには、ミハイルの言葉を理解するだけの意識すらも残っていなかった。 「安心なさい、夢の世界もそんなに悪いものではありませんよ。 なにしろ、そこはあなたの望んだ世界なのですから。 理想の夢に抱かれて、衰弱死しなさい、それはそれで幸せな死に方だと思いますよ、クックック」 最後の最後に、ナイトは自分の名を呼ぶ誰かの存在を思い出した。 だが、それが誰なのかわからぬまま…… ナイトは夢の世界へと堕ちていった。
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