第三章 虚構と現実と     虚構の中の現実

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「オヤオヤ、無詠唱、魔法陣なしの即効性魔乖咒。 さすがですねぇ。相手に発動を悟らせる間もなく、これだけの威力の魔乖咒を使えるとは…… 『魔王の娘』の異名、伊達ではないようですね」 「チッ」 飄々としたミハイルを前に、ヨルは舌打ちをしながら髪をかきあげた。 長い、金糸のような金髪。 それが周囲に広がると同時、表面に黒い幾何学模様が浮かび上がった。 〈魔乖術師の刺青〉である。 魔乖咒を発動させるには、魔法陣を描かねばならない。 それは魔乖咒の大原則の一つだ。 だが、実際に魔乖咒を使うたびに魔法陣を描くのは面倒な話である。 特に、戦闘で魔乖咒を使う場合、魔法陣を描く手間のタイムロスはは致命傷だ。 よって、一流の魔乖術師はあらかじめ魔力の通る筋を、自分の体に描いておくのである。 よく使う魔法陣のパターンを直接描き込み、いざという時はそこに魔力を流せば、魔法陣を描かずに魔乖咒を発動させることが可能なのである。 これがあれば高位の魔乖咒であっても、魔法陣を簡略化して発動させることが可能なのだ。 それが〈魔乖術師の刺青〉と呼ばれるものであった。 ヨルの場合、髪に魔力の通り道を作っているのであった。 黒い、まさに『闇』のごとき魔力がヨルの体内を駆け巡り、魔乖咒を展開していく。
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