プロローグ 起こり得る呪詛

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目の前に魔乖術師がいた。 敵である。 彼は何が楽しいのか、嬉しそうに顔を歪め、ノドに絡み付くような含み笑いをもらした。 「クックックック……では、ここで問題です。夢と現実の境界はどこにあるのでしょう?」 その質問に答えることなく、ナイトは敵を見つめた。 相手はそれを気にすることなく、実に楽しげに続けた。 「夢とはいつか覚めるものです。そこが二つの違い、といえばその通りでしょう。では、そこでもう一度質問です。もしも、この世に覚めない夢というものがあったら、それは現実と呼んで差し支えないのでしょうか?」 「…………」 ナイトはやはり答えようとはしなかった。 「つまるところ、夢と現実を区別することはできないのですよ。今ここにある世界がどれだけ確かなものだと言えるのですか? 人間が感じる現実という世界など、些細なきっかけで崩壊してしまいます。一匙の毒、一本のナイフ、一発の銃弾があれば、それだけで人生は終わりです。目覚めれば消える世界と同様、脆さという欠点では大差ないのですよ」 「…………」 「いえ、言ってしまえば、現実世界とは覚めない夢のことなのですよ」
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