60人が本棚に入れています
本棚に追加
目の前に魔乖術師がいた。
敵である。
彼は何が楽しいのか、嬉しそうに顔を歪め、ノドに絡み付くような含み笑いをもらした。
「クックックック……では、ここで問題です。夢と現実の境界はどこにあるのでしょう?」
その質問に答えることなく、ナイトは敵を見つめた。
相手はそれを気にすることなく、実に楽しげに続けた。
「夢とはいつか覚めるものです。そこが二つの違い、といえばその通りでしょう。では、そこでもう一度質問です。もしも、この世に覚めない夢というものがあったら、それは現実と呼んで差し支えないのでしょうか?」
「…………」
ナイトはやはり答えようとはしなかった。
「つまるところ、夢と現実を区別することはできないのですよ。今ここにある世界がどれだけ確かなものだと言えるのですか?
人間が感じる現実という世界など、些細なきっかけで崩壊してしまいます。一匙の毒、一本のナイフ、一発の銃弾があれば、それだけで人生は終わりです。目覚めれば消える世界と同様、脆さという欠点では大差ないのですよ」
「…………」
「いえ、言ってしまえば、現実世界とは覚めない夢のことなのですよ」
最初のコメントを投稿しよう!