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「リンー! ご飯よー!」
階下から、クチナシの花の香りのような、美しいソプラノの声が響いた。
輪太の、母のものである。
「はーい!」
輪太も大きく返事をし、ひんやりとした床へ足を下ろす。
欠伸と共に大きく伸びをしながら、輪太は、夢の中の声を思い出した。
良く覚えてはいなかったが、母の声とは違う気がした。
もっと可憐で儚くて、淡い匂いのする声だった。
立ち上がって歩き出せば、トントンと、自分の足音が鳴る。
それによって、部屋のだいたいの様子が、聞こえて来る。
ドアに近づいた事が分かると、輪太は右手を泳がせて、自分の部屋のドアノブを握った。
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