六月三日、朝の歌声

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キッチンの扉を開けると、カチャカチャと食器が鳴る音と同時に、香ばしい匂いがした。 「お母さん、お早う」 「お早う!」 母が、元気な挨拶を返した。 パサリと、新聞を畳む音が聞こえる。 「お父さんも、お早う」 「うん」 鼻を突く煙草の煙のような、掠れた声は父のもの。 「お兄ちゃんは?」 輪太が椅子を引きながら言うと、 「またサークルの友達と徹夜だって」 不機嫌そうな母の声が返ってきた。 「はは……」 コトリと、テーブルの上に皿が置かれる。 パカッというのは、炊飯器を開ける音だ。 「よくやるよね、お兄ちゃんも」 「ホントよ、全く」 母が、ふわりと甘い白米の匂いと共に、言った。 「大学って本当に無駄よね、学費は高いし、授業は少ないし。ねぇ、パパ?」 「ううむ」 父は上の空で、新聞を読んでいるようだった。
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