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「ごめんね、私、これ以上ツバキとは付き合えない」
柚香(ゆずか)からの突然の宣告に俺は目の前が真っ暗になった。
「あのね。昨日、私の元彼と会ってきてね……。
何というか、その、好きになっちゃった」
やめてくれ。
やめてくれ……。
もうそれ以上聞きたくない。
「10ヶ月間ありがとう。本当に楽しかった。
じゃあね、ばいばい」
柚香は振り向いて、どんどん離れていく。
「待てよ!!」
柚香はゆっくりとこちらを振り向いた。
「なに?」
「本当に終わりなのか……?」
柚香は首をゆっくり縦に動かした。
「自分なりに考えて出した答えだから。もう覆ることはないよ」
何が来ても、言い返すつもりだった。だけど、口からは何も出てこなかった。柚香の目を見て分かってしまった。
柚香の目は俺じゃない、他の誰かを見てる……。
「もう、いいかな? 幸助が待ってるから」
俺はたまらずその場から走り去った。
一番聞きたくなかった、幸助、という名前。
今、柚香が好きな男の名前。
それだけは、聞きたくなかった。
『何それ。ツバキったらもう!!』
あんなに好きだった笑顔も。
『好きだよ、ツバキ』
あんなに甘かった言葉も、体も。
もう今は俺の物じゃない。受け入れることが出来なかった。
逃げることしか出来なかった。
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