1.別れ

5/18
前へ
/86ページ
次へ
家に帰ってから俺はすぐに風呂の電源を付けた。 「あら、柚香ちゃんと遊んでくるんじゃなかったの?」 母さんが訝(いぶか)しげな目で俺を見る。 そっか、出る時は「柚香と遊んでくる」って言ったんだっけ。 「別れたよ……」 「そう……。ゆっくりお風呂につかりなさいね」 深く聞いてこない母さんに今は感謝したかった。 俺は部屋に入るとそのままベットに倒れこんだ。 終わっちまったんだなぁ、全部。 寂しさと共に虚無感もこみあげてくる。 フォトフレームの写真の俺達は無邪気に笑っている。 こうしてる間にも柚香は他の男と一緒にいるんだろう。 くそ……。 考えたくないことまで考えてしまう。 俺は立ち上がってフォトフレームを下に倒した。 その時、左側のポケットに違和感に気付いた。 俺がまさぐるとそこにはピンクの携帯電話があった。 あぁ、そういやさっき拾ったんだっけな。 俺、何で警察に届けなかったんだろう。 そんなことにさえ気付かない程、俺は酷い精神状態だったんだろうか。 俺はその携帯電話の電源ボタンを押した。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加