4.揺れる気持ち

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「どうして柚香がここに……」 俺が困惑していると舞子さんが人差し指と中指を伸ばした。 「考えられる理由は2つ。 1つは、さっき聞いたけど、もんじゃの時幸助ともめたんでしょ? その時の非礼を詫びに来たか。 もう1つは……ツバキ、ただアンタに会いに来たのか」 なるほど……。俺は思わずうなった。 後者はともかく、前者はありうるかもしれない。 「もしくは両方か。とにかく降ろすからね。 一応裏に車を止めておくから、何かあったら言いなさい」 「え、でも明日舞子さん仕事は……?」 俺がそう聞くと舞子さんは俺の頭を叩いた。 「社会人なめないでちょうだい。 これくらいなら全然大丈夫だから。 とにかくまた連絡ちょうだい」 俺は頷いて車からゆっくり降りた。 舞子さんはそれを確認して車を発進させた。 柚香は降りてきた俺を見て、こちらに駆け寄ってきた。 「ツバ……」 「何しに来たの?」 柚香が何かを言う前に、こちらから切りだした。 俺の性格上、先に話させてはダメだ。 主導権は常に握らなくてはいけない。 「えと……この前、もんじゃの時、幸助が迷惑かけたみたいで。 ごめん……」 「……柚香が気にすることじゃないよ。 悪いのは、幸助の方だし」 むしろ俺よりも佐伯先輩の方が怒っていた。 次あったらビールをかけるとも言っていたし。 ……冗談とは思うが。 「そっか。ならいいんだ、うん」 思いつめていたんだろう。 柚香が安心したかのように息を大きくはいた。 「話ってそれだけ? それならもう家に入りたいんだけど」 俺は柚香の返事も聞かずに鍵を入れた。 きっと何か言われたらぐらついてしまう。 自分自身がよく分かっていた。 「……待って」 柚香は後ろから俺に抱きついてきた。 突然のことに俺の脳はショート寸前だった。
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