4.揺れる気持ち

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その柚香と入れ替わりに白い車が入ってくる。 舞子さんの車だ。 舞子さんが駆け足で降りて来てすぐだった。 パァン! 乾いた音が閑静な住宅に響いた。 俺は舞子さんに初めて引っぱたかれた。 「なんて顔してんの、アンタ」 「え?」 「嬉しくもない、悲しくもない。 そんな死んだような顔するな」 死んだような顔……か。 さっきの舞子さんの問いかけを思い出す。 反対に、俺の顔は舞子さんにどう写ってるんだろう。 「私は……どっちでもいいの。 アンタが柚香と付き合おうが付き合わないかなんて。 だけど……。 やらされていますみたいな態度、私は1番嫌いなんだよ。 男なら堂々とやりきれ」 「舞子さんに、俺の気持ちが分かるはずない! 余計なお世話なんだよ! 出会って間もない人が、 俺と柚香の関係につべこべ口を挟まないでください!」 言い終えてすぐ、言い過ぎたと後悔した。 舞子さんは俺のことを思って言ってくれてるのに……。 しかし舞子さんは笑った。 そして俺をゆっくり抱きしめた。 あまりの温かさに俺は泣きそうになってしまう。 「分かるよ。誰よりも分かる。 分かるから、アンタには乗り越えて欲しいんだ」 何だろう、この安心感。 俺は全部を舞子さんに委ねたくなった。 「ツバキは1人じゃない。 だから、ゆっくり考えてみて」 「……はい」 それだけ言うと舞子さんは車に乗って去っていった。 そうだ。 ゆっくり考えてみよう。 きっと混乱しているんだ。 俺はさっきよりも吹っ切れた気持ちで、家の中に入った。
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