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「なるほどねぇ……。
柚香ちゃんと喧嘩してそのまま別れた、と」
友希が腕を組んで考え込んでいる。
「大宮先輩はどんな感じで……その……」
友希はとても聞きにくそうだ。
大宮先輩はカクテルを1口含んでから吐き出すように言った。
「他に好きな子が出来た。ですって。
そこはツバキと似てるかもしれない」
大宮先輩は苦笑した。
「そんな理由で振るなんて勿体ない。
俺だったら大宮先輩を……」
「そんな理由でも、その人からすれば大きな理由なのよ。
きっとそれは、その人にしか分からないのよ」
そういう大宮先輩は寂しそうだったけど、どこか強い目をしていて……。
少し、羨ましかった。
どうしたら俺にもそんな目が出来るようになるんだろう。
「おおっと、ツバキ、酒が足らないんじゃないのか?
ホラホラ、もっと飲めって」
佐伯先輩が俺の空いたジョッキに並々とビールを注いだ。
「佐伯先輩、俺、ビール苦手で……」
「関係ないよ、そんなの」
いつもは佐伯先輩の無茶ぶりを優しく制してくれる大宮先輩が、
ジョッキを持つ俺の手を握った。
「全部飲みこんじゃいなよ。
寂しい気持ち、悲しい気持ち、辛い気持ち。
全部飲んじゃえ」
「大宮先輩……」
「そうだぜ、ツバキ」
友希も大宮先輩の言葉に続いた。
「振られたのは辛いよな。
けどこの先、もっと辛いことはある。
これくらいで凹んでちゃ人生損するぞ」
「友希の言う通り。
逆に振られた奴が幸せになればいいんだよ。
見返してやれよ。地団太踏ませてやれ。
ま、俺にはこういうことしか出来ないけどな」
佐伯先輩はニッと笑うと、持っていたビールを一気に空けた。
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