4.揺れる気持ち

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* 「夏奈、梓ちゃん、こういうこと言われたらどう思う!?」 「また質問ですか? くどいですよ」 うんざりした様子で夏奈はため息をつく。 「大体、最近遊び過ぎだったんですよ、先輩は」 梓ちゃんも口を尖らせる。 気付けば、締め切りまで2週間を切っていた。 俺の恋愛小説はネタが出てこなく、後半のシーンが白紙の状態だった。 「でも私、ツバキ先輩の作品好きですから答えてあげます」 「私も時給1000円でいいですよ」 ……梓ちゃんの言葉はあくまで冗談と受け取っておこう。 俺は今回、後輩キャラの心情を深く描きたかった。 その為、この2人に色々聞いておきかった。 「まずどんな作品なんですか?」 俺は2人に今回の作品について簡単に説明した。 テーマは先輩と後輩の恋。 「なーんか、その後輩、夏奈に似てません?」 ざっと話し終えた後、梓ちゃんは言った。 「そうかな?」 書いている時は全く意識してなかったんだけどな。 もしそうなら返って丁度いいかもしれない。 「じゃあその夏奈に聞こうかな? この先輩のこと、どう思う?」 「言葉だけ、ですね」 「言葉だけ?」 俺が聞き返すと、夏奈はバッグから赤ペンをとりだした。 そしてあるセリフに印を付けた。 「『大切な物は失ってから大切って気付く』 そんなの私、間違ってると思うんです。 失ってから気付くなんて、そんなの大切なんかじゃない。 まやかしです、酔ってるだけです。 本当に大切なら……」 夏奈は赤ペンを俺に向けた。 「初めから、大切って気付いてるはずですから」 「……そんなの大切に決まってるんじゃ? それで、失って打ちひしがれてるんじゃ?」 「そこです、この物語の先輩の悪い所は。 目を背けてるんです、現実から。 どうして俺らはこうなったのか。 そこを考えてないんですよね」 その夏奈の言葉は、妙に俺の気持ちをつついた。 俺は柚香を失って、その大切さに気付いた。 それで頭がいっぱいだった。 『こんなに好きだったのに……どうして』 そこで思考をやめ、立ち止まったままだった。 だけど、この前舞子さんに引っぱたかれて目が覚めた。 いや、考えることを再開した。 泣いてばかりじゃなく、泣きやんだ時のことを考えてなかった。
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