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1時間半という短い時間だったけど俺と夏奈は十分に満喫した。
夏奈の歌声は初めて聞いたけれども、とても綺麗な歌声で、聞きほれてしまった。
「あぁ、楽しかったです!」
「定例会まであと少しだ。 急がないと」
俺は携帯を開いて時間を確認する。
後15分程で定例会は始まってしまう。
「ほら行くぞ、夏奈」
しかし夏奈はそこからピタリとも動かなかった。
いや、向かいのゲームセンターに目がいっていた。
「夏奈……何してるんだ」
「あ、すみません……でもその……。
あの、ぬいぐるみが可愛いなぁって……」
夏奈は頬を染めて下を向いている。
なるほど、さっきからチラチラと目がいっていたのはあれを見ていたからか。
……仕方ないな。
俺はそんな夏奈の頭に手を置いた。
「ほら、行くぞ」
俺は夏奈の手を取って、ゲームセンターの方に歩いて行った。
「え、ツバキ先輩……定例会が」
「すぐ取ってすぐ行けば問題ないよ。見てろって」
俺は200円を取り出してクレーンを動かした。
夏奈も不安そうにその行方を追っている。
最初の一回は少し動いただけで終わってしまった。
「ほら先輩、無理ですよ。だからもう……」
「見てろって」
俺の計算が正しければ、次で……。
アームは景品をしっかり掴んだ。
そしてぬいぐるみを掴んだアームは景品口の上でそのアームを離した。
ガタンという音と共に落ちて来るぬいぐるみ。
俺は身をかがめてそのぬいぐるみを取り出した。
そして夏奈の手に渡した。
「ほらよ」
「……ありがとう……ございます」
夏奈はぎゅっとぬいぐるみを両腕でしっかり抱きしめた。
「一生大事にします」
そう言ってはにかみながら笑う夏奈に俺の心はドキッと高鳴った。
なんか、愛しいなぁ……。
って何だ俺は……!?
何考えてるんだよ!?
「先輩、定例会行きましょう?」
「お、おう」
俺は走った。
「わ、先輩、待って下さい、早いです!」
自分の心臓がこんなにも早く動いてるのは、走ってるから。
そうごまかそうとした。
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