序章-朝もやと電車

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 いつも早起きな母さんに電話をかけた。 「もしもし、母さん?」 『あらユウキ、朝早くどうしたの』 「僕、春休み中愛知県に行ってくる」 『は……?あんたいきなり何』 ブツリ  電話を切った。  いきなり電話を切ったことは申し訳なく思ったが、こうでもしなければ凄まじい反論を受けることになっていたはずだ。  一人での旅行。 それも、30日。  親なら普通止めるだろう。 当たり前だ。  しかし既に僕は駅のホームに立っている。  三日かけて春休みに備えた甲斐あって荷物を考えなくていいのは嬉しい。 「母さん、怒るだろうな」  口では申し訳なく思うようなことを言う。 だが、胸の中は期待で一杯だった。 『――まもなく、2番線に電車が参ります。白線の内側に下がってお待ちください』  電車のアナウンスが入る。 この電車の行き先は、愛知だ。  始発の次と言うこともあり、ホームには自分以外いなかった。  季節は春だが、まだ少し寒い。  遠くから、朝もやをかきわけて電車が走ってくるのが見える。  電車が朝もやと、朝日を受けて光る。 ぐんぐんと近づいてきて  それが僕の目の前で止まり、扉を開いた。 この扉を越えたら春休みが始まる。 ホームと電車の境界線を一歩踏み出すと、扉は閉まり電車は走り出す。  僕と、たくさんの荷物と、少しの期待を乗せて。
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