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亜希は久保の胸に顔を埋めると、ギュッと抱き付いた。
前のようなフラッシュバックは起こらなくなってきたものの、未だにあの日の事を思い出すだけで身震いが起きる。
――無かった事にしたい。
――あの日の出来事は。
それを誰かに話したとしても、楽になれるとは思えない。
――だけど。
「……理恵まで巻き込みたくなかった。」
亜希はそう呟くと、抱き付く腕の力を強くする。
そして、ぽつりぽつりと春の日の出来事を語った。
理事長に連れられてホテルに行った事。
そこで待っていたのが高津である事。
偶然、内田にロビーで再会した事。
――パズルのピースを嵌めるみたいに。
断片でしかなかった事が一つに繋がっていく。
「――それで高津さんに連れられていった先の部屋にいたのが、……さっきの写真の『前島』って人だったの。」
――下卑た笑い。
――容赦の無い痛み。
写真で見るまでは、現実味を持っていなかった怪物みたいな男が、実在したのだと知ると恐ろしくて堪らなくなる。
「それが接点……?」
こくりと頷く亜希の呼吸は乱れ、肩で息をしている。
久保はぽんぽんと亜希の背中を叩くと、短く「そうか」と答えた。
亜希の顔色はまだ戻らず、相変わらず真っ青だ。
「……少し、横になった方が良さそうだな。」
ふらつく亜希を支えてベッドへと連れていくと、心療内科で処方された頓服薬を飲ませて寝かしつける。
「あとで、内田に理恵ちゃんの事は確認してみるよ。」
ふわりと亜希の頭を撫でて宥めると、安心したのか小さく一つ頷く。
やがて亜希が規則的な寝息を立てると、久保は大きな物音を立てないように気を付けて部屋を出た。
(――さて、と。)
胸にあった議員バッチを手掛かりに、「前島 議員」をキーワードにインターネット検索をする。
(あった、コイツか……。)
そこには被害者の名前は伏せてあったものの、現職議員の逮捕という不祥事の記事が書かれていた。
「……民自党?」
前島の経歴を辿り、それが阿久津派の所属議員だと知る。
久保は眉をひそめた。
――騙された。
そう言っていると聞かされたから、てっきり仲間割れだと思っていたのに。
前島の経歴を見る限り、高津とは最初から敵対する党派の議員だ。
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