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「あ、ばあちゃん?おれー。
え?オレオレ詐欺じゃないって。孝志だよ、孝志」
大学を卒業し、東京の企業に就職した俺は、初任給でばあちゃんにケータイを買った。
真ん中のボタンで俺に繋がるようにして。
あの日聞いた、ケータイを持たない理由。
それは子ども心にも切ない話だった。
戦時中、徴兵されたじいちゃんから来た電報があったそうだ。
それは、じいちゃんが軍艦に自決する前日。
"アスデマス アナタノブジヲイノリマス ミツ"
最後に無理矢理書き足したような文章も手紙すら残さなかったのも、じいちゃんらしかったと言う。
それ以来、ばあちゃんは手紙や電話は訃報を伝える不吉なものにしか見えなくなったのだと教えてくれた。
だから俺は、このことを招待状にして送ろうと思う。
ケータイで話しながら、そっと開いたのはきらびやかな細工の施された招待状。
"ばあちゃん、俺、結婚するんやよ"
心を込めて、声に出さずにケータイの向こう側に、そう伝える。
あの日、ばあちゃんを心配する母さんの電話が、ばあちゃんの心を溶かしたように。
俺のこの声が、手紙が、ばあちゃんの心を温かくしますようにと願いながら。
Fin.
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