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「どうぞ」
「バカにしないで下さい」
「はい?」
「アッサムじゃないですか!」
「バレました?」
楽しそうに笑う先生。
怒ってるはずなのに嬉しくなってしまいそうで、緩むになる口元を隠すためにそっぽを向く。
「だって好きでしょう、こっちの方が」
「好き…ですけど」
頬を両手で包まれて、顔の向きを先生の正面に持っていかれて。
優しい顔で問われたら、答えない訳にはいかないじゃない。
「…紅茶のことだとわかっていても嬉しいものですね」
「へ?」
「好き、って」
「!」
弁解しようと開いた口はパクパクと金魚のように空回りするだけ。
先生はその間に離れてしまった。
そうして冷めたマグを一気に流し込んで、もう一度私の前に立つ。
「この味は、僕がゆっくり教えますから」
――――――触れたのは一瞬。
次に瞬きした時には、先生は一歩先にいた。
「さあ、それを飲んで教室に戻りなさい」
いつも通り過ぎる先生の微笑み。
唇に残ったノヴァの香りだけが、今の出来事を白昼夢でないことを告げていた。
fin.
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