梅雨、ざわめく心

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こんなはずじゃなかった。 何度思ったって、私のデスクから見える広重の横顔を見て思う。 あの横顔を見て、胸が苦しくなるなんて私ひとりだけでいいのに、ということを。 昼休みになって、「千花さん、お昼どうですか?」と声をかけてくる彼に対して、「送らなきゃいけないメールがあるから、まだ行かないけど」とだけ返す自分が嫌い。 広重は、「千花さんとランチがしたかったのにな」とヘラヘラ笑った。 ああ。もう可愛いなと思ったけど、「そう。じゃあ、また今度ね」と、下を向いた。 一緒に食べたい、と思っても言えなくて。 ランチに行くのは、付き合ってから二回くらいしかない。 勿論、噂が恐いから、行かない。
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