誘われない花見

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スプリングコートに身を包んだ。 定時は6時だけれど、時計の針はもう7時だ。 花見があるというのは本当みたいで、定時のチャイムが鳴るとみんな、そそくさと席を立っていった。 私はというと、残っていた仕事を片付けて、キリのいいところで帰ることにした。 ふと田原さんのデスクを見ると電話を片手にパソコンに向かっていた。 花見、本当に行くのかな。 そんなこと気にしていると、目が合った。 軽く手を振ってくれたから、私はお疲れ様ですと口にして頭を下げた。 自動ドアを出ると少し肌寒い外気に触れて、身震いする。 こんな日に花見なんて気がしれない。 なんて思いながらも、道路沿いに桜が並んでいる。今は八分咲きといったところか。 綺麗だと思ってしまった。
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