誘われない花見

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少しイライラしていたはずなのに、広重は私を急に思い出の中に放り込んだ。 「千花さん、後ろ乗って下さい」と。 彼がグリップを握っているのは水色の自転車だった。 そういえばと思い出した。 広重はここから自転車で八分くらいの距離に家があると。 わざわざ電車を乗り継ぐのも面倒くさいらしく、自転車で通勤していたのだ。 「乗れなくないかね?」 「去年の花見、乗ったじゃないですか?」 「……えっ?」 「憶えてませんか?俺のチャリで田原さんとニケツしたの」 自転車のカゴに鞄と袋を無造作に投げ入れた。 「千花さん、鞄は?」 「も…持ってる」と口ごもった。 あれは、広重の自転車だったのかと、荷台に腰を落とした。タイトスカートを気にして、横向きに。 軽く広重の腰に手を当てた。 ゆっくりと進む自転車。 ふと見上げると、桜の花弁が舞って落ちていた。
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