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本当なら、こんな時間に僕みたいな制服を着た奴が
通学路を歩いているなんてあり得なかった。
時刻は午前10時過ぎ。
もうとっくに2限の授業は始まっていた。
しかし僕が歩みを早める事は無かった。
春。
桜が綺麗に咲く並木道を、ゆっくりと一人、歩く。
「お前達は、綺麗と言われて何とも思わないんだろうな」
綺麗だと言われる事が、当たり前で。
全く自意識過剰な桜なんだろうな、と感じる。
別にその辺の似非能力者みたいに植物と話せるだとか、そんな事じゃない。
ただ、なんとなく、桜の木が自らの身体を揺らしてまで花弁を舞い散らせるその姿が
どうしても、僕の目には厭らしく見えてしまう。
まるで『私を見て』とでも言っているような、そんな厭らしさ。
《お前達みたいに媚が売れたら…》
きっと僕はこんな風にはならなかったのだろう。
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