第一話/9月19日①

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「この、塩化ベンゼンジアゾニウムをカップリングさせると、P(パラ)-フェニルアゾフェノールになるのです。」 先生が言った。早口言葉か貴様。まぁ栃乃洋には敵うまい。 トリビアによると、発音しにくい言葉で文章を作ると 火星探査車が火星に着陸し老若男女などを代表して栃乃洋などが初出場 となるらしい。 個人的には未だに東京特許許可局が言えない。 閑話休題。 結論から言ってしまえば、水無先生は僕のいじめのことを知っている。さらに言ってしまえば、この学校の先生がたのほとんどは、僕のことを知っていた。 あたり前だ。 二年間である。 高校に入ってから二年間、僕はクラスが変わらなかった。 僕はこの公立宮墨高校において、自然科学コースというものに属している。いわゆる進学コースとかいうやつだ。 40人1クラスのクラス編成。それは一年生から卒業まで変わることがない。その間ずっと担任だったのが、水無だった。 西瑞マサト。三年生。それが僕。 今まで二年間一緒にいて、さらに一学期一緒にいて。それでもこの、このクラスが抱える秩序としての不和を、理解できていないなど不可能だ。 だろう、ではなく、だ。 推測ではなく、絶対。 不可避なまでに、不可能なのだ。
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