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昼休み。
三時間目と四時間目の間の休み時間の出来事は、省かせてもらった。語ったところで意味の無いことだし、語るほどの価値も無かったからだ。
それで、昼休み。
洗いに行けなかった雑巾を持って、席を立った。机の上の落書きは、少し痕は残っているが、どうせまたすぐ書かれる。あまり綺麗にしてやつらに気持ちよく書いてもらうなどという献身精神は、残念ながら僕には無かった。
こういうのを器が小さいって言うんだろうか。
ぼんやりとそんなことを思いながら教室を出たところで、少し出たところで
どん、
と、誰かとぶつかった。ぶつかってしまった。
「あ、ご……」
謝ろうとして、相手の顔を見ようとして
瞬間、相手がばっと早足で歩き去った。それはほとんど走った、というべきものであったようにも見えた。
ピシャッ!
と
教室の扉が閉まる音。教室の扉が閉められる音が、廊下に響いた。
トイレについて、雑巾を洗う。蛇口を捻るとひやりとした冷水が、ばしゃばしゃと、とめどなく流れ落ちた。
それから顔を上げて鏡を見た。掃除は昼休みの後なので、それもあったのか、薄く白んだ鏡がそこにはあった。
それでも、鈍く光を反射するその鏡面は健気に僕の顔を写し返す。それを見て、耐えられなくて思わず笑みがこぼれた。
クラスで孤立していた。先生たちからも見放された。友達もいない。ただいつも学校に来ては、自分の存在を否定される。
見ろ。これが僕だ。
鏡を見ながら、そう自分に言い聞かせた。
さっきの女生徒の姿が脳裏をよぎった。その姿、その顔が。
楠田理沙。
好きだった子がいた。それでも、そんな彼女と話すこともできない臆病者。
それこそが、今の僕だった。
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