第一話/9月19日①

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幸運なことにというのか、不幸なことにというのかは別として、とにかく、そのちょっとかっこいい感じのする少女に、珍しく僕は心当たりがあった 自慢じゃないが僕は他人の顔を覚えるのが苦手だ。結論から言ってしまえば、僕は話すときほとんど相手の顔を見ないし、見たくないと言うのが理由だった。 ほとんど、というのは例外があるということだが、それも二人だけだ。言ってしまえば18年間生きてきて、まともに話せる人間が二人しかいないということなので、こちらもお世辞にも自慢はできない。 「久しぶり、だよね」 無視してもよかったが、なんだかそれを許さないような雰囲気がそこにはあったので、 思わず、というか 反射的に、そう口走っていた。 それを聞いて少女――木原零花は、にっ、とシニカルに笑ってみせて、 「飯食べようよ。屋上行こっか」 そう言う。 この時、僕は思わず返事をしてしまったのと同じように、首を縦に振ってしまっていた訳だけど、後になって思えば、僕はその時、やはり彼女のことを無視して逃げるべきだった。 そう、痛感させられる。 彼女のことを思うなら、そして、これから起こること、巻き込まれる全ての者たちのことを思うのならば、僕はこの時、無感情なまでに非情に、言葉などなく無言に、苛烈なまでに静謐に、 雑巾を絞って、蛇口を閉めて、彼女のことなど無視して教室に帰るべきだった。 けど、僕はそうしなかった。そうしておけば、今までとなんら変わらない日常が、これからも続いていく筈だったのに。 卒業までの辛抱。 それでも僕は、頷いた。そのことを僕は、後になって死ぬほど後悔する。
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