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「ごめんな」
しばらく続いた沈黙を破って木原はそう言った。少しうつ向いて、それから、僕を見て。
「あたしのこと恨んでるよな」
今にも壊れてしまいそうなほど儚げに、木原零花はそう言った。ふっ、と浮かべられた笑顔は、はち切れんばかりに、痛々しいものだった。
木原零花は、楠田理沙の従姉妹だった。
故に、僕は彼女を知っている。楠田理沙が幼なじみであるのと同じように、木原零花は幼なじみだった。
いつも遊んでいた。それこそ、物心ついた時から。今ではもう覚えてないけど、母さんがそう言っていたのは今でも覚えている。
いつも三人一緒だった。それこそ、家族のように。
木原が姉で、理沙が妹で。女二人と男一人だったから、いつも圧され気味だったけど。それも懐かしい、思い出だ。
そう
思い出、だ。
「私は――逃げたんだ。お前から。お前を独りぼっちにして、ただ、逃げたんだ。許されるわけない。分かってる。」
けど――と
彼女、木原は自分の心を踏みにじるように、かつての自分を、捻りつぶすようにして、言った。それはほとんど懺悔のようでもあった。
「私は、ひどいな。今になって、お前に許してもらおうとしている。」
それでも、と彼女は言う。
「今さらだけど、ほんと、今さらだけど、お前に許して欲しいって、そう思うんだ。」
許して下さい。もう一度、友達になって下さい。
どこまでも素直に、どこまでも実直に、どこまでも飾ることなく、彼女はそう言った。頬を伝った涙の軌跡が、乾いたコンクリートの上に、幾つも溢れ落ちていた。
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