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「は、はは……、ははは」
カラン―― と
右手にぶら下げていた金属バットがずり落ちる。僕はただひきつった笑みを浮かべていた。そのまま膝の力が抜けたようにしてその場に崩れ落ちた。
疲労が全身を包み込む。その中で歓喜にも似た感覚が体を蝕んでいく。
達成感。ただそれだけだったのかもしれない。目の前に横たわる血みどろの人間を見ながらそう思う。
だが浮かび上がる表情とは裏腹に、涙が、ひっきりなしにこぼれ落ちる。歪んだ顔が、夜明かりに照らし出されていた。
夕陽が見守る公園の木の側で、かつて誓った二人だけの約束。
記憶が、走馬灯のように駆け巡っては、さらに顔を歪めさせる。
臆病者の自分。自分では何もできないから、いつだって誰かの後ろにいた。そんな自分が嫌で、前に出ようと決意した。
だがどうだ。結局自分勝手なそんな自己満足の押し付けは、いつだって誰かを傷つけるだけだった。
そして今、その成れの果てがここにあった。
ああ、ちくしょう。そんなもんどうしろってんだ。誰かを守ることが誰かを傷つけることでしか無かったのだと、それでもそうじゃないと信じ続けていた。それでも、実際、そうでしかなかったのだと知らしめられた時、後に残されるものはなんだ。
それ以上の最善があったのかもしれない。それ以上の最良があったのかもしれない。それでも、分からなかった僕に出来たのは、馬鹿みたいに最悪でしかなかったのだろうか。
だとすれば、最悪じゃないか。
結局、求めていた答えが正しかったのだと思い知らされる。
何も無ければ、何も起こらない。
僕なんかいなければ、誰も傷つくことなんてなかった。誰もいなくなることなんて無かった。
――僕が……、全ての元凶なのだ。
冷たい感覚が左手にもたらされた。ずっしりとした重みが手のひらにのし掛かる。冷たい無機質なそれを、そっとこめかみに突き立てた。
――大切な者はどこにもいなくなった
柔らかな月光が照らし出す夜色の空の下で、二つの血まみれの体が全ての結末を祝福するようにして横たわっている。バットからは赤い暖かな血がしきりに滴っていた。
そして、僕は
ぼくは――
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