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死んだ方がいい
机いっぱいに子供の落書きみたいに書かれた無数の悪罵、侮蔑、嘲りの言葉たち。
けれどそれは好奇心なんかからくるものではもちろんなくて。面白半分、あるいは悪意から描かれたそんな彼らを、僕は至って冷静に、ひどく虚ろに、そしてほんのちょっぴり感傷的に、それでもなんでもないように見下ろしていた。
卵を割ったら黄身が崩れて出てきた時のような、それを無言で見つめてかき混ぜるような、そんな調子である。
ガラッと椅子を引き、その机の上にカバンを乱暴に乗せる。
冷水を入れるとダマになって浮かび上がってきたコーヒーの粉のように、教室中に散らばったクラスメートたち。
――なんだよ
彼らはそんな僕をなんとも面白くないものだとでもいいたげに。興味を失せたような表情を見せて、それから各々の話題に戻っていく。
机には様々な言葉――死ね、うざい、生理的に無理、やらが書かれており、さながら悪罵の百番街とでも言うべき状態と化していた。
油性マジックで、刻まれた言葉はそう簡単には取れない。こういうとき彼らの本当の楽しみは今この瞬間の反応ではなく、もちろんそれもあるが、むしろその後。
つまり無様に懸命にこれらを消そうとする僕の姿にあることを僕は知っている。これまでそうであったように、これからも、そうなのだろう。
――てかまたこれかよ
ここのところ毎日だった。別に悲しいとか、辛いとか、そう言った気持ちはほとんど無かった。ただそういう事には慣れていたから。
ネタ切れなのかな、とか。ボキャブラリー少ないなこいつら。ほとんどテンプレじゃねぇか、とか。そんなことを思う。
悲しいとか、辛いとか、そんなこと思ったところでどうにもならない。訴えたところで何かが変わるとも思えなかったし、事実、そうだ。
ならば一番良いことは慣れることであり、相手に飽きさせること。それがこの四年で、僕が学校から学んだことだった。
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