第一話/9月19日①

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一貫してそこそこ平和。 それが最近の僕の日常だった。もちろんかつてと比べれば、の話である。 それは慣れがそうさせているだけなのかもしれなかったが、僕自身としてはそれが素直な気持ちだった。 散乱したいくらかの教科書たち。あるいは筆箱の中身――からからと転がった鉛筆は、僕がここに来るまでの間に、見事なまでに汚ならしく踏み潰されていた。 鉛筆というのは意外と硬いものだ。ただ踏んだだけでは、踏んだ本人が滑って転んでさぁ大変な状態になるだけである。 「べっ、別にあたしがやったわけじゃないんだからね」 残念ながらそんな分かりやすいツンデレはこのクラスにはいなかった。むしろこの場合、なんちゃってヤンデレと言ったほうが、ふさわしいのかもしれなかったが。 そんなことを思いながら倒れた椅子/机を直し、椅子に雑巾をかけて散乱した教科書類を拾う。無様に地べたに這いつくばるようにして、あるいは期待されたように。 最後に筆箱を拾い上げたところでガツンと衝撃――ぶつかった誰か/男子――確か名前は土居だったような気がした。そいつがぶつかってきた反動でまた筆箱がかしゃん――とその中身をぶちまける 「邪魔なんだよ。どけよ、おら」 「……ごめん」 ほとんど聞こえないような声で、そう呟いた。するとクラスのあちこちから「うわっ、しゃべった」みたいな笑い声が上がる。 喋ったくらいで騒ぐなと言いたい。もちろんそんなめんどくさくなるようなことは言わないが。 それから予鈴が鳴り始めた。早くしないと先生が入ってくる。机の落書きを消すのは無理だったが、それ以外はちゃんと整理できたのは幸いだった。 今日もまた、いつもの日常が始まる。
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