第1話

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着なれた筈の黒い背広が窮屈に感じた。 29歳でこの職に就き、凡そ1年。これまで先輩らが親族に説明するのを幾度と見てきたし、その内容も全て覚えていたが、初めてその役を任された今日は、やはり少し緊張する。 折り畳み式の長机に向かって座っている親族らの視線を感じると、宮本は目を合わさないようにして申込書を配った。 「脱落だあ?」 無精髭を生やした五十代くらいの男が、酒くさい息を吐きつつ宮本を睨んだ。 見てくれを気にしないのか、頭は寝癖がついたままで、よれたジャージは最後に洗濯をしたのはいつかと思ってしまうような染みがあちらこちらに付いている。 「そうです。プレーヤーが健康であってもイベント日の集合時間に遅れれば脱落と見なされ、強制的に帰還、処刑となります。どうされますか。申し込まれすか?」 誰かの唾を飲み下す音が聞こえた。
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