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「永沢、ここで合ってる?」
見慣れたマンション。ここは私が住んでいるマンションの前だ。隣には和樹くんがいる。頭がぽかぽかして、胸が温かい気持ちで満たされている。
「合ってるよ。でもなんで?」
「あの後、永沢一人で帰すのが怖くて」
「怖い?」
涙はもう止まっていた。頬には泣いた跡が残ってるけど……。
「オレに告白してきた後、オレの腹に手を回して縋り付いてくるから。ここで別れたら帰れないんじゃないかと思って」
……全然記憶にない。告白した後、涙が止め処なく溢れてきたのまでは覚えてるけど、その後どうやってここまで来たのか全く記憶にない。未成年なのに擬似酔っ払い体験をしてしまったのか。
えっと、そんなことより。何も考えようとしないおぼろげな頭が徐々に冴え渡ってきた。和樹くんの話を聞く限り。
「ごっ、ごめん!」
謝りたい気持ちと、恥ずかしさが込み上げてくる。和樹くんのお腹に手を回すなんて……っ! 鼓動が高まる。
「別に謝らなくてもいいよ」
和樹くんはズボンのポケットに手を突っ込んで微笑んでいる。
「それじゃあまた明日」
「う、うんっ。また」
和樹くんは歩き出したけど私の隣でぴたりと止まった。私の高さに合わせようと身を屈め、耳元で囁く。
「オレに縋り付いてくる姿、かわいかったよ」
またすたすたと歩き出し、足音が遠くなっていった。限りなく甘い声で言われたその言葉に、鼓動が高まっていたのもあって私はまたしても頬を染めてしまった。和樹くんってそんなこと言う人だったっけ。なんにしても今日は初めて体験したことが多くて、一生忘れられない日だろうと私は頭の片隅で考えていた。
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