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「どうしたの、由香ちゃん」
不思議そうな顔で私の顔を覗き込んでくるのは私と同じ吹奏楽部の真奈美。髪は肩くらいまで伸びていてストレートで、触るとサラサラしている。テレビのCMで見るような髪質だ。羨ましい。私はバリバリでうなじにかかるくらいで精一杯なのに。昔、髪を伸ばしたらうなじの部分にぶつぶつができてそれ以来、髪は短くしている。
「……ちょっと、ね」
通常時でも目を細めている。見えないんじゃないかってくらい細めている。元々細いんだろうけど。おっとりしていて、どんな行動も緩慢としている。そういうのが男の子の心をくすぐるのか、多数のファンがいる。守りたくさせるのだろう。正にお嬢様だ。……本当にご令嬢なのですが。
「ちょっとって?」
いつもの鈍い真奈美は感じられなくて、間髪入れず聞いてくることに困惑してしまう。誰かこの不思議お嬢様をどうにかしてください。私と和樹くんの仲は知ってるはずなのに。すると真奈美は「あっ」と声を上げた。やっとわかったのだろう。鈍いなぁ。
「彼と何かあったの?」
「まぁそんなところ」
「えぇ~!? 由香ちゃん、彼氏なんていたの?」
真奈美は片手で口元を抑えて驚きの声を上げた。こっちが驚きたいくらいだ。こないだ言ったばかりなのに。勘はいいんだろうけど、天然過ぎてどうしようもない。
「あれ、真奈美は知らないんだっけ」
「初耳だよ~」
話を聞いてたのかな。それとも私の言い方がまずかったのかな。真奈美と接していると自分が悪いように思えてくるから不思議だ。でも。
「……彼氏とは呼べないよ」
思わず俯いてしまった。
「えっと。そういう感じの男の子はいるんでしょ?」
「うん」
この質問には即答できてしまう。けど彼氏となると……。あ、今って何時ごろだろう? 時計を見ようと顔を上げながら後ろを振り返る。
そこには彼の姿があって。やんわり微笑んでいる。
――って、えぇっ!?
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