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予想だにしていなかったことに私は面食らってしまう。
数瞬もしないうちに優しく心地よい声音が耳に入ってきた。
「永沢」
彼が庄子 和樹。整った顔立ちで、優しくいつも笑顔。笑うと歯列が整った白い歯が見えてとても爽やかに見える。バスケをしているせいか細身ではあるが、均整のとれた体つきである。頭のほうも良く、220人ほどいる学年の中でトップ5にはいるほどだ。明るい性格で誰とでもすぐ仲良くなれる。生徒はもちろん、先生からの信頼も厚く次期生徒会長と言われているが、本人はそんな気はないらしい。
「ど、どうして……和樹くんがここに?」
彼がここに来るとは思っていなかったので驚きのあまり、どもってしまう。
「いつまで待っても永沢が来ないからさ、気になって来たんだ」
混乱していた頭がようやく冷静になっていく。そんなに時間が経ったのか? と思って時計を見ると、既に六時半を回っていた。窓から外の風景を見渡すと薄暗くなり始めている。
「ごめん、なさい」
頭で考えるより先に口が勝手に動いていた。
「……いいよ、それよりも早く帰ろう。よければ君も」
私に向けられていた目線が真奈美に移る。真奈美は一瞬戸惑ったような表情をしたが、すぐ元に戻る。
「由香ちゃんが庄子君と二人っきりで話したいことがあるっていうから、私は先に帰るね」
私がいつそんなことを……。話があるっていうのは本当なんだけど。勘のよさはピカイチだ。
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