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「それじゃ。またね~」
いつもの鈍臭さは感じられず真奈美はばたばたと騒々しく音楽室を後にした。
二人っきりになり、しーんと静まり返った空間。和樹くんは静かに私の元へ歩いてきた。
「さっきの……どこまで聞いてた?」
「永沢が『うん』って言ってたところだよ」
うん? 果たしてそんなこと言っただろうか。予想外の出来事に頭がパニくってしまって彼が来る前の記憶がぼんやりとしか残ってない。
「うん。そうだよ」
そっか。「どこまで」って言ったんじゃ、そりゃあ「うん」と聞いたところまでとしか答えられない。和樹くんは窓のほうを向いた。端正な横顔だ。遠くを見るように目を細めた。
「それより」
何かを言おうとしてるみたいだけど、躊躇している。やがてゆっくりと口を開いた。
「……話って何?」
「そっ、それは……その」
和樹くんは再び私に顔を向ける。視線を浴び、咄嗟に俯いてしまった。どうしよう……こんなんじゃ告白するなんて、夢のまた夢だ。私はやれる子だ! そう自己暗示をかけて手に力を込める。
「かかっ、帰りながらでも話せることだし、そのときにするね」
よし言えた! けど最初は舌が回らなかった。肝心なところでやらかしてしまった。
「そうだね、時間も時間だし。帰りながらにしようか」
そんな私を余所に和樹くんは微笑む。気づいてるのかどうかは分からないけど、優しい。そして――そんな彼に惚れてしまった私は今日、告白する。
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