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「えっ……」
言い終えると益々体温が上昇するのが手に取るように分かった。私は恥ずかしくなって、両手で頬を覆った。どうしよう、どんな反応するかな……恐る恐る和樹くんの様子を窺う。大きく目を見開いていて、その眼差しは私から離れない。時が止まったかのように瞬き一つしない。
しばらくの間沈黙が続いた。その間に私の体温も戻った……はず。和樹くんはいまの出来事が理解できたのか、見開いていた瞼を肉眼で分かるくらい遅く閉じた。
「ごめん……まだ自分の気持ちが整理できてないんだ。だから、その気持ちには応えられない」
「そう……だよね」
瞼を開き、哀切した表情を見せる。
和樹くんの笑っている以外の顔を初めて見た気がする。和樹くんのこと何にもわかっていないのに……告白しちゃって、なんてバカなんだろ私。
「でもさ、これからも一緒にお昼食べたり、帰ったりはしようね?」
そう言って先ほどまでの表情を感じさせないほど、和樹くんはにっこりと笑う。なんて優しいんだろう。こんな私にも笑いかけてくれて。また今までどおり同じように接しようとしてくれる。
「な、永沢?」
妙に焦ってる。こんな姿も初めてだ。ああ、私は本当に和樹くんのこと何も知らなかったんだ。それなのにっ……それなのに。
ふと頬に温もりを感じる。視線を落とすと、和樹くんの手が私の頬を触れているのが目に入った。
あ。いつの間にか私は俯いていて……泣いてるみたいだ。どうしてだろう、涙が止め処なく出てくる。彼が優しくしてくれているから? なら、どうして涙が出てくるんだろう。優しいのに泣いてしまうなんておかしい。そんなの、そんなの……おかしい。
「永沢、今日はもう帰ろう」
私はただ黙って頷くことしか出来なかった。また歩き始めると視界が翳み始めた。
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