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「一応訊くけれど、あなた、家は?」
「……ない、ですね。ここには確実に」
「……そのようね」
お互い妙に冷静に納得してしまう。テンションの振れ幅が大きすぎて……なんか、疲れた。
「とにかく、熱もあるようだし、数日はここで休むといいわ。他に行く所もないでしょう?」
「え、でも……」
「何?」
「ここ、確か部外者は立ち入り禁止なんじゃ……も、もし迷惑ならすぐにでも出ていきます!」
言ったそばから頭がぐらついて顔をしかめた。
それを見てか、ふ、と女の人が微笑む。
……わ、初めて、笑ったの見たかもしんない。なんか、意外と優しげっていうか、柔かい。
「心配しなくても、さすがに病人を追い出すような鬼じゃないわ。他の兵にも言っておくから」
「あ、ありがとう、ございます……でも、ずっといるわけにもいかないし」
「それもそうね……」
少し思案顔で腕を組んだ女の人が、まぁ、とどこか仕方なさそうに呟いた。
「住む場所くらいなら、宛がないわけではないけれど……」
「え……本当ですか!? あの、なんとかお金も稼ぎますから、その、手配とかしてもらえれば、本当すぐにでも出ていきます、ここ!」
お金の稼ぎ方とかわかんないけど。っていうか働ける保証も確証もないけど。まともに街の様子見てもないけど。
……って、なんかあんまり大丈夫じゃない?
「いいえ」
「はい?」
「賃貸費は必要ないわ。ただ、あまり快適な場所ではないけれど、それでもいいなら」
賃貸費が要らない……住み込み、とか? 確かに条件としてはいいかもしれないけど……。
「もしあなたさえよければ、私の家に来る?」
「……え」
「物も少ないし、あなたのような若い子にはつまらないかもしれないけれど」
「け、けど」
「けど?」
「え、と……いいんですか? そんな、急に」
「いいのかも何も、訊いているのは私よ。あなたはどうなの?」
ぴしゃり、とした物言いに身がすくむ。お、怒られてる……のかな?
もう一度首を振ろうと思ったけど、正直、今のあたしにとっては一番いい条件、なんだと思う。
背筋を少し伸ばして、女の人の青い目を見返した。
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