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「遅い! それから狙いは正確に! 目標は中央、最低でも全弾的に命中させなさい!」
「はい!」
少し滑ったグリップを握り直して狙いを定める。
数十メートル先にぶら下げられただけの的は、風が吹く度にふらふらと揺らぐ。振れ幅は数センチだろうけど、あたしの手元はなかなか落ち着かない。
「いつまで見ている! 照準を合わせている間に距離を詰められるぞ!」
「は、はい!」
「次、右!」
「…………っ」
体を90度捻って再び照準を絞るのに集中する。放った弾丸はてんで的外れな所を飛び、あたしはといえば反動でおもいっきりすっころんだ。
「……ったぁ……」
「方向転換をしたら、それに合わせて足場を作りなさい! あなたはいつも手元ばかりに意識を置きすぎているわ」
「は、はい」
「それから左。せっかく双銃を扱っているのに、サクラは右ばかりに頼りすぎているわね。もっと左でも撃てるよう意識すること、いい?」
「はい……」
「……立てる?」
「あ、うん」
差し出された右手を取って立ち上がる。
ジゼルの目はいつの間にか少し穏やかになっていて、思わず肩の力が抜けた。
「もう遅いし、今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました!」
騎士団式だという敬礼を真似ると、ジゼルが小さく笑った。釣られてあたしも頬が緩む。
怖いし厳しいけど、こうやってちゃんと優しい。それがあたしの知るジゼルだった。
***
「行く気はない?」
食器をまとめていると、ジゼルがそんなことを言い出した。
「バチカル……?」
「えぇ。聞いたことはない?」
「確か、キムラスカ・ランバルディアの王都……だっけ?」
「そう。よく覚えていたわね」
「それは、まぁ……って、バカにしてる?」
「いいえ、勉強熱心なのはいいことだわ」
茶化すように言ったあたしの言葉に、いつもと特に変わらない表情で返すジゼル。こういう人なんだ。
「でも、任務なんだよね? いいの? あたしがついていっても」
「本来、この仕事は私みたいな人間が赴くものでもないわ。ただ書状を届けるだけだし、部下に任せてもよかったのだけれど」
「ジゼルが受けたの?」
「ええ。あなたをつれて行こうと思って」
「……あたし?」
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