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最初に見たときは、猫でも逃げ込んできたのかと思った。
デスクの隅でガタガタと震えて、一生懸命口に手を当てて、息をもらさないようにして。
そこにいたのは、まだ少女とも言えるほどの子供。
ちら、と光に当たった顔色は気の毒なくらいに蒼白していた。
「……こんなところで何をしているのかしら?」
「ぁ……ごっ、ごめんな、さ……っ」
びくり、と大袈裟に体を跳ねさせて唇が震えていた。声を発するのと同時に、涙を流すのが僅かな反射で見える。
「教団の人間ではなさそうね……部外者この辺りどころか、教会以外立ち入り禁止のはずだけれど」
「ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
「…………」
口がきけないというわけではないけど、話にならない。しばらくして譜業銃に怯えているのだと気付いたけれど、何者かわからない以上、わざわざ丸腰になる気もなかった。
仕事の疲れも相まって、早く処理したい、と重いため息がもれる。
「……用がないなら出ていきなさい。私も、わざわざこの部屋を汚すつもりはないわ」
「あ、ぇ……?」
未だ縮こまりながら机の隅に収まる少女が、意外そうに目を丸くした。……本気で殺されるとでも思ったのだろうか。
反応は示したものの動く気配がないので、部屋に備え付けてある連絡管の蓋を開け、そこに話し掛ける。
少し経つと、すぐに二人の一般兵が来た。命令通り、武器は手にしていない。
「お呼びでしょうか、総長」
「えぇ。その子を教団の外まで案内してちょうだい。手荒にしないように」
譜業銃を見ただけでこの様子だ。何をしたわけでもないのに外で泣き喚かれては、教団の信頼に関わるだろう。
兵は机の下の少女を見て、怪訝そうに私を一瞥した。
「総長、この子供は……」
「いいから連れていきなさい。あなたたちには関係のないことよ」
「は、はい!」
ぴしゃり、とわざと鋭い口調で言えば、二人の兵は素早く机の下に手を伸ばした。
あなたたちにはって……本当は私だって関係ないはずだ。
少女は強張りながらも、案外すんなり机の下から出てきた。
髪の色は漆黒と言えるほどの黒で、その輪郭は光に当たってようやく明確になった。
兵たちが少女を連れて退室する。
……まったく、いつの間に潜り込んだのだろうか。
また息を長く吐いて、一人掛けの椅子に体を預けた。
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