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目が覚めた時、今度は見覚えのある景色が映った。
……とは言っても何年も見た見慣れた景色とかじゃなくて、覚えのある程度。
さらさらと流れる金髪とそれに陰る碧眼。一瞬……本当に一瞬だけほっとして、すぐにはっとした。
「…………っ!?」
「急に起き上がらないほうがいい。私は危害を加える気はないわ」
ぐわんぐわんと煩い頭で考える、とりあえず昨日からの一日。なんだこれ。
頭を押さえるあたしを見ながら、言わんこっちゃない、とでも言いたげに女性が息を吐いた。
「無理しないほうがいいかと思うけれど……」
「あ、の! そうじゃなくて、いやそうなんだけど!」
「何かしら?」
「何って……どうなってる、んですか? あたし、なんでこんな所で寝て……?」
「私も同じことを訊きたいわね。何故あんな所で寝ていたのかしら?」
「あんな所?」
「ベンチの上で寝ていたの、覚えていない?」
「ベンチ……っ嘘!? だって、じゃあこれ夢じゃなっ、わっ!?」
ずる、と質のいいシーツ同士がおもいっきり滑り、そこに片手で体重をかけていたあたしも当然のようにバランスを崩す。
勢いでベッドから落ちたあたしは頭を強かに打ち付けた。
……痛い。
「まったく、いきなり立ち上がるから……」
「……たい……」
「……え?」
「い、たい……夢じゃ、ない……?」
落ちたまま、仰向けに転がったまま、シーツに絡まったまま。
覗き込んだ金髪の女の人が驚いてたけど、気にならない。……ただ妙に怖くなって、思わず泣いてしまった。
「な……っ」
「いた、い、痛いっ……なんで、夢っ、じゃな……ひっ、ぅ」
「…………」
なんで痛いのか、夢じゃないから? そんな安直なことで現状を突きつけられて、急に怖くなってきた。
どうやってここに来たのかわからない。だから当然、帰り方がわからない。帰れない。
ひっ、ひっ、と喉が鋭く鳴って苦しくなる。抑えようとすればするほど苦しくて、音はますます大きく鳴った。
「…………」
と、額に何かが触れた。
暖かくて、撫でるように動くそれ。目の前を覆っていた自分の手を退けると、金髪の女の人が撫でてくれてるんだとわかった。
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