§3 Activation(始動)

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「では、人や車は……」 「全然ない事はないですが、それでも少ないですね。たまにジョギングをしたりスケボーで通り抜けて行く人はいるみたいですが」 「スケボーですか」 「あっ、私は見てないですよ。娘がそう言ってました」 卓司はそれを聞いて黙り込む。右隣に立つ尚也は取り出した手帳に卓司と店主のやり取りを聞いては何かを書いていた。 「……え~~と、私達は今、本道からこの道に入って来たのですがここを真っすぐ行くとどこに出るんですか」 「ここからだと、そうだなあ……『あづま総合運動公園』か『福島西インターチェンジ』かな」 「あづま総合運動公園ですか」 名前からして凡その見当は付くが詳しくは分からない。 「ほら、よくプロ野球の公式戦が行われる『あづま球場』がある所ですよ」 あづま総合運動公園は、1995年の『ふくしま国体』の為に整備された運動公園で野球場の他に陸上競技場、多目的運動場などがある。広大な敷地の中には桜や銀杏並木もあって休みとなればピクニックに訪れる人も多い。 「スミマセン、野球には疎くて」 「そうですか。私は根っからの野球好きなので仕事そっち除けで観戦に出掛けますが……」 男性は目を輝かせ声を上げて笑うが、卓司はその笑いが収まるのを暫く待つ。 「……で、福島西インターチェンジは東北自動車道の?」 「そうです」 「山形県へは?」 「勿論、出れます。車なら40分もあれば『米沢(よねざわ)』には行けると思いますよ」 男性の話を聞いて大体の地理的状況は把握できた。総じて言えば、犯人が人目につかずに逃げるには十分な環境と言えるであろう。そして、卓司は更に質問を続ける。 「……今回の事件は計画的犯行だと思われるのですが、事件前、詰まり、1週間前でも2週間前でも良いのですが、この辺りで何か変わった事はありませんでしたか」 犯人が下調べをしている可能性が高いので不審人物や不審車両の事を尋ねたのである。 「それは警察にも尋ねられましたが、なかったと思います」 「そうですか。ところで、富末さんとはお知り合いですか」 近所なので顔ぐらいは知っているのではないかと考える。
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